将棋猫
CONTENTS

❖陣屋へGO!
❖やはり小田急しかあるまい!
❖鶴巻温泉駅着、いざ!
❖今度こそ、いざ、陣屋!
❖陣屋と将棋と升田幸三
❖陣屋とトトロと升田幸三
❖森内九段がペコちゃんスマイル
❖終局後
❖楽しい1日はロマンスカーのスピードで過ぎゆく






藤井力”の罠
2014.11.16@ariake JT cup

もう秋なのに、あの夏の将棋祭り
2013 SUMMER 京急将棋祭り

裁縫歴ゼロ人間のなんちゃってマリア・ローザ

朝日杯将棋オープン戦
(笑)の神に愛された棋士の巻

お年玉をもらったよfromJT杯さんの巻

こども?強いよね。踊る台場のJT杯の巻

京急将棋祭り2012
東のアイドル、西のアイドルの巻

京急将棋祭り2011
将棋猫、再び上大岡に立つの巻

将棋猫、千駄ヶ谷の夜に吠える@JT杯の巻

アドベンチャー風味ねこゲーム
三ニ一先生奮闘記

無謀なり将棋猫、王座戦に出没の巻

富士通杯だよ! 達人集合の巻

京急将棋祭り2010
はじめての将棋祭りの巻




【おことわり】 この記事はほぼ観戦記ではありません。浮かれた将棋ファンの覚書きです。ちゃんとした観戦記を読みたい人は、東京新聞とか、王位戦中継サイトとか、にこにことかAbemaとか、あと他のファンの方のSNSとか、そっちをご覧ください。

❖陣屋へGO!

 もうずーっとずーっと前から陣屋の大盤解説会に行ってみたいと思っていた。諸々の事情によりなかなか実現できずにいたわけだが、ようやくその宿願が叶うときがきた。

 思えば今年の王位戦の対局会場が発表されたとき、第6局が陣屋で行われると知り、なにか運命的なものを感じた。今度こそ行けるのではないかしらん? しかし陣屋が会場になるのは第6局だ。それまでに決着がついてしまう可能性だってある。それからの私は祈るような気持ちで対局の成り行きを見守った。
「どちらが王位に就いてもいい、お願いだから陣屋まで来てください! 来てね? 来いよ! 来ないとかマジあり得んから!」  この呪詛のごとき邪な祈りが両対局者のもとに届いたのだろうか、菅井王位、豊島棋聖、菅井王位、豊島棋聖、菅井王位と順番に勝ってくれて、待望の第6局in陣屋が実現することとなった。キャッホー! 陣屋だ、陣屋に行くぞー!ということになったのである。

❖やはり小田急しかあるまい!

 陣屋は神奈川県秦野市の鶴巻温泉にある。最寄り駅は小田急線鶴巻温泉駅だ。いろんなルートが考えられたが、久しく乗っていないロマンスカーに是が非でも乗りたかったので、新宿経由で行くことに。

 新宿である。小田急である。今回乗車する車両はコレ!jinya01
 間違った、こっち!
jinya03 MSE(60000形)です。フェルメールブルーに小田急ロマンスカーの伝統カラーであるバーミリオンオレンジの帯が入ったスタイリッシュなデザインの車両であります。車両の中の写真とかも撮りたかったけど、他のお客様の迷惑になると思い断念。興味のある人は自分で乗ってみてください。
 ちなみにちっこいロマンスカーは、ホームなどの床掃除のための自動洗浄機です。前がMSE型、後ろがVSE型。動いているところが見たかったなぁ。

 電車の旅には弁当が欠かせない。かたや「東華軒の金目鯛の味くらべ膳」、こなた「さがみ庵のあなごめし」。
ekiben 新宿駅を発車するやいなや弁当を食いはじめる。なぜならば、新宿-本厚木間の所要時間は40分程度、うかうかしているとあっという間に到着してしまうのだ。
 しかしなんですな。車窓から見るなんの変哲もない東京の町並みも、うまい弁当を食べながら浮かれ気分で眺めると、少し輝いて見えた気がしましたよ。なんてな。

❖鶴巻温泉駅着、いざ!

tsurumaki 鶴巻温泉駅でございます。
ヤバイ、めっちゃテンション上がってきた。ヒャッハー!
 ”いざ、陣屋へ!”・・・と、その前に”Let’s 手湯”だ。鶴巻温泉駅前広場にかけ流しの源泉に手を浸せる手湯がある。せっかく温泉に来たんだからこいつも経験すべし。匂いを嗅ぐ。ほんのり温泉っぽい匂いがした。湯に手を入れてみたら、じんわり温かくて気持ちよかった。けっこういいじゃん、手湯。
 手湯に気を良くして、次は”Let’s 足湯”だ、と勢い込んでやってきたのだけれど、足湯はおばあちゃんたちの社交場だった。
asiyu 足湯が芋洗いーー。ちょっと意味不明な表現だが、そんなような状態であったと思っていただきたい。そこに自分の入り込める余地はなく、なによりおばあちゃんたちの間に割って入っていく勇気も自分にはなかった。足湯断念。

❖今度こそ、いざ、陣屋!

 陣屋は・・・森の中に佇んでいた。
jinya1「荘厳」とか「幽玄」という言葉があるが、まさにそのとおりの佇まいだった。思わず姿勢を正している自分がいた。
 ふと周りを見回す。どひゃ~、なんか無造作に車庫に収まってるけど、あれはロールス・ロイス・ファントムじゃありませんか! 聞けば陣屋ではファントムで送迎してくれる宿泊プランがあるそうな。ハイソサエティーじゃのう。
 しげしげとファントムを眺めまわしていると、ついいけない誘惑にかられる。ボンネット先端に鎮座しているオーナメント”The Spirit of Ecstacy”、こいつに触れてみたくなるのだ。 ご存知の方も多いと思うが、この女神像は盗難防止のため、触れると一瞬にしてボンネットの中に格納されてしまうらしい。RR
 めっちゃ触りたい。格納される瞬間を見てみたい。けど、ここは辛抱だ。はるばる来て問題を起こして追っ払われ、肝心の大盤解説会に行けなかったらどうする!? バカ丸出しだ。私は悪魔の誘惑を退け、今度こそ入り口へ向かった。
 すると、
「ドドーン!」  森閑とした空気のなか、鳴り響く勇ましい陣太鼓の音。jinya2
 おお、陣屋事件をきっかけに設置され、客を迎える際に打ち鳴らすというあの陣太鼓ではないか。う、うそ~! ほんとに鳴らしてくれるんだ。感激だ~。

❖陣屋と将棋と升田幸三

 解説会が行われる源氏館に行くと受付はまだだったので、待ち時間のあいだにあたりを探索することにした。
jinya3 陣屋の敷地内には飲泉があり、コップが用意されていて新鮮な温泉を飲むことができる。適応症は慢性消化器病・慢性便秘だそうだ。体調はいたって快調だが、せっかくなのでいただいてみる。温泉は・・・冷たかった。まあいい。
 さらに敷地の奥へと進む。行きあたりの建物は宿のフロントとロビーになっていた。ここには美術品や武具コレクションなどとともに将棋関連のグッズが展示されている。
jinya4jinya5 実はこれを見るのが今回の大きな目的でもあった。木村義雄十四世名人や大山康晴十五世名人をはじめ、名だたる棋士の色紙が並ぶ。
jinya5jinya6 なかでもひときわ私の目を惹きつけるのは、升田幸三実力制第四代名人の肖像画と色紙である。jinya7
 かっこええのう。
 そもそも私が陣屋を訪れたいと思ったのは、升田幸三実力制第四代名人のファンだったからだ。実際に将棋を指すところを見たことはない。残された資料から将棋界のレジェンドであることを知りファンになった。そして陣屋こそが、その最たる伝説の舞台となった場所なのである。
 陣屋事件についてはいまさら説明するまでもあるまいと思うが、肖像画の下に簡単な説明書きが飾られていたのでそのまま掲載しておく。(もっと詳しく知りたい人は自分で調べてください)jinya8
 升田幸三実力制第四代名人は陣屋の玄関先まで来ていながら、なぜ帰ってしまったのだろう? それはいまもって謎のままだ。しかし私は今回陣屋を訪れ、ある大胆な仮説を思いついたのである。

❖陣屋とトトロと升田幸三

 その仮説を述べる前に語っておかなければならないことがある。陣屋と宮崎駿監督の関係だ。宮崎監督は陣屋と親戚筋で、幼い頃は陣屋の庭でよく遊んだそうだ。いまも陣屋の庭には「トトロの木」と呼ばれる大きな楠がある。
totoro1 陣屋で遊んだ頃の思い出がトトロのモチーフにもなっていると言われるが、大きなトトロの木を見上げていると、小さな宮崎少年が見えてくる気がする。
totoro2 深い緑に囲まれた庭のそこここに不思議の気配を感じる。  
 ん?  
 ( ゚д゚) ・・・   
 (つд⊂)ゴシゴシ 
 (;゚д゚) ・・・ 
 (つд⊂)ゴシゴシゴシ
 (;゚Д゚) …!? 
 ほら、あれ! あの白いやつ・・・。
totoro3  升田幸三実力制第四代名人は見たのかもしれない。のみならず例の白いやつにいざなわれて、普通ならたどり着けない次元の森の奥地に迷い込んでしまったのかもしれない。事件後、升田幸三実力制第四代名人が日を改めて陣屋を訪れ、預けていったという色紙の句を思い出していただきたい。masuda1
「強がりが 雪に轉んで 廻り見る」
「雪に轉んで」というのは、白いやつを雪になぞらえたのではあるまいか? アレにつまづき転んだときに森への入り口を見つけ、好奇心旺盛な彼はアレの後をついていったのではあるまいか?masuda3
 そういえば鶴巻温泉駅の南側には、古くから地元の人々に「落幡の大エノキ」と呼ばれ、親しまれてきた巨木がある。推定樹齢600年、幹周10m、樹高30m、神奈川県下で最大の立派なケヤキだ。(ケヤキだが、樹形がエノキに似ていたため、地元の人たちはエノキと呼んだそうな) keyakikeyaki2
ookeyaki 似ている。夜中、灰色の大きいやつが急成長させたあの木。さらに大エノキのすぐそばには「大けやき」というバス停がある。人通りも車通りも絶えた深夜、灰色の大きなやつがこの停留所で「ね○バス」を待っている姿をつい夢想してしまう。
 もしやあの日、升田幸三実力制第四代名人も灰色の大きなやつの懐にしがみつき、大エノキの樹上につれていかれたのでは? はたまた大けやきバス停から「ね○バス」に乗って夜空を駆けたのでは? ために対局場に行けなかったのではあるまいか? そして真相を語っても信じてもらえるはずもなかったのであえて真実を語らず、ひとつの句に思い出を残したのではあるまいか?  「突拍子もないことを・・・」と大いに呆れられたかもしれないが、陣屋という場所、升田幸三という人物、そのふたつがそろうと、そんな奇想天外なファンタジー仮説もあり得るような気がしたのである。

❖森内九段がペコちゃんスマイル

 大盤解説会が始まる時刻だ。与太話はこのへんにしておこう。
 大盤解説会が行われた源氏館はゴージャスだった。
jinya10 いい感じに飴色になったぶっとい梁が天井に渡されたその建物は、300年前の建物を改築したものだそうな。会場の各所にモニターがすえられ、どの席からでも盤面や対局者の様子がバッチリ見られるようになっていた。さらにコーヒーのセルフサービス付き。至れり尽くせりのおもてなしだ。
 そうそう、解説会が始まる前に検討室近くの手洗いにいったのだけれど、検討室のほうからうまそうなカレーの匂いが漂ってきた。陣屋カレー!? 思わず鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎまくってしまったよ。落語に蒲焼の匂いをおかずに飯を食う話があるが、”陣屋カレーの匂いwith白飯”でも飯が食えるかもしれん。それほどうまそうな匂いだったのだ。叶うことならば陣屋カレーも食べてみたかったなぁ。
 大盤解説会の様子はきっといろんなメディア、いろんな方が詳細にレポートしてくれていることと思うので割愛する。ただし森内俊之九段がゲストで登場してくれたことと、終局後に両対局者が会場に顔を見せてくれたことだけお伝えしておこう。
 夕方頃に登場した森内九段は、解説会で噂になっていた”驚愕の順”について解説してくれた。王位戦中継サイトの131手目の棋譜コメにもあるが、この局面で先崎学九段は千日手濃厚と見ていた。解説会のほうでも飯島栄治七段は同様の見解を示していた。そこに示された驚愕の順というのが、△7七桂不成▲7三竜△8九桂成▲同玉△5九竜▲7九歩△7四香の順である。
kyokumen  これを示された飯島七段は、「へぇぇ、ほぉぉ、なるほどぉ・・・こういう手がありましたかぁ」とmoriuchi感服した様子でしきりに唸っていた。そんな飯島七段の様子を見た森内九段は「僕が考えたんじゃないんですけどね。僕より優秀な人が考えたんですけどね」とポロリ。会場に大きな笑いをまき起こした。飯島七段に「自分が考えましたって言っておけばいいのに」と言われると、テヘペロとシャイな笑顔を浮かべた。
 さらに「もしこの手順で進んだら今年の名局賞に推そうと思ってました」と付け加え、飯島七段に「まだ9月ですよ?」と突っ込まれて、またもテヘペロ。森内九段かわいすぎだろ。  関係ないけど森内九段といえばカレー。今回現地までやってきてくれたのはカレーのため? まさかね。

❖終局後

 終局後は両対局者が解説会場まで来てくれることになっていた。飯島七段は事前にどの局面について対局者に訊いてみるか、会場の意見を取り入れつつ決めた。皆の知りたいことはひとつ。やはり勝負の分かれ目になったと思われる7七桂不成からの順についてだ。「ただでさえ対局者は疲労困憊なのに、こういうことを聞かれるのってけっこうつらいんですよね。訊くほうも辛いし」と飯島七段。そりゃそうだ。
toyosima そうこうしているうちに両対局者が登場。二人の顔には疲労の影が色濃く、大変な対局だったことが伺えた。自転車のロードレースではたまにハンガーノックで動けなくなる選手がいる。ハンガーノックとは、長時間の運動でカロリーを消費し尽くしてしまい、極度の低血糖状態になって体に力が入らなくなる症状のことだ。要するにガス欠状態だ。将棋の一局のカロリー消費量も半端ないというのはよく知られているが、本局も対局者がハンガーノック状態になりかねないほどの激闘だったのではないか。
 そんな両者を目の前にして、sugai聞きにくいことを質問するのは飯島七段も気が重かろう。「そこをあえて踏み込むのがプロのお仕事である!」と、二人が登場する前に飯島七段が自分を奮い立たせるように宣言していた。一瞬、頭の中にスガシカオの「Progress」が流れた。
 二人を気遣いながらも、問題の局面について質問する飯島七段。菅井王位は「ちょっとその順だと勝てないんじゃないかと思っていました」と少し錯覚があったようなニュアンスのことを言っていた。一方の豊島棋聖は「それはちょっと思いつきませんでした」と。
 なにはともあれ、  「お二人ともお疲れさまでした。素晴らしい対局ありがとうございました」  対局の感想はそれに尽きる。

❖楽しい1日はロマンスカーのスピードで過ぎゆく

dorayaki あっという間だった。朝起きて電車乗って、弁当食べて、陣屋着いて、解説会見て。文字通りあっという間に時が過ぎてしまった。その速さ、さながらロマンスカーの如し。名残惜しさいっぱい、立ち去りがたさいっぱい。でも帰らなければ。陣屋に来たせめてもの思い出にと「陣屋どらやき」を土産に買った。
 帰宅するなり、熱い茶をすすりながらどら焼きを食った。きょう1日の記憶が甘さとともに蘇る。ああ、楽しい1日だった・・・。


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