将棋猫

contents

●朝日杯観戦は狭き門

●棋譜コメにない藤井語録

●そのタイミングは、もはや神の御業




お年玉をもらったよfromJT杯さんの巻

こども?強いよね。踊る台場のJT杯の巻

京急将棋祭り2012
東のアイドル、西のアイドルの巻

京急将棋祭り2011
将棋猫、再び上大岡に立つの巻

将棋猫、千駄ヶ谷の夜に吠える@JT杯の巻

アドベンチャー風味ねこゲーム
三ニ一先生奮闘記

無謀なり将棋猫、王座戦に出没の巻

富士通杯だよ! 達人集合の巻

京急将棋祭り2010
はじめての将棋祭りの巻




●朝日杯観戦は狭き門

 ちょいと前のお話になりますが、去る2月9日に有楽町朝日ホールで行なわれた「朝日杯将棋オープン戦」に行ってきました。もちろん一番のお目当ては、かねてより念願だった藤井九段の大盤解説を聞くことです。「いつの日にか藤井九段の解説を直に聞きたいものよのう」と願ってはおりましたが、意外にも早くそのチャンスに恵まれました。
 朝日杯の観戦者は、観戦希望の応募者から抽選で選ばれます。500人の枠に対して1800人もの応募者があったそうで、かなり高い競争率といえましょう。よくぞ当選したものです。ありがたや、ありがたや。

 対局については、経過も結果も皆さんとっくにご存じでしょうから、ここで詳しく述べるまでもないでしょう。知らないとおっしゃる方は、中継サイトで確認してつかあさい。棋譜も結果も、藤井九段のコメントもバッチリ載っています。(朝日杯将棋オープン戦中継サイトはこちら→http://live.shogi.or.jp/asahi/index.html

●棋譜コメにない藤井語録

 既知のお話をしてもしかたがないので、ここでは棋譜コメにのらなかったこぼれ話をするとしましょう。

 初めてのナマ藤井九段、そしてナマ藤井トークは、期待を裏切らないどころか、予想のはるか上をいく面白さでした。
 登場するなり藤井九段は軽くジャブを入れて笑いを取り、会場をあたためます。
上田「順位戦昇級おめでとうございます」
藤井「実はちょっと浮かれてます(笑)。きょうも浮かれて家を出て、駅まで行ってから財布がないのに気づいて、あわてて家まで取りに戻ったりしました(笑)」

 この日の対局者の一人、菅井竜也五段の印象を聞かれて。
藤井「よく知らないんですよ。知らないんですけど、実年齢よりずっと老獪な将棋を指すという印象がありますね。東の長瀬か、西の菅井かと言われて・・・」
上田「言われてましたっけ?」
藤井「いや、わかんない(笑)」

 横歩取りの形勢判断について。
上田「序盤の形勢判断はどういうふうに考えたらいいんでしょう?」
藤井「わかんない。僕のほうが教えてほしいです(笑)」
上田「『序盤は2歩持ってるほうがいい』って鈴木大介八段は言ってましたけど」
藤井「鈴木大介? じゃあ、あてにならない(笑)」
上田「いやいやいや、高橋道雄先生の本に書いてあったそうです」
藤井「高橋先生が。じゃあ、大丈夫です(笑)」

 菅井・谷川戦、51手目▲9八香から△7三銀上▲3六歩と進行する場面にて。
上田「この手の狙いはなんでしょう?」
藤井「うーん、よくわからない。でも、そんなにいい手じゃないですよ(笑)。先手は5五歩と打ちたいけど、なぜ打たないのかね? 9八香なんて指してる場合じゃない(笑)。香車なんて動かさないほうがいいんです!」
 102手目△9八竜で香車を取られ、ドヤ顔の藤井九段。
藤井「ほ~ら、香を取られちゃった。やっぱりねー(笑)」

●そのタイミングは、もはや神の御業

 渡辺・菅井の決勝戦で特別に解説会場に顔を見せてくださった羽生三冠も「予想なんて当たらなくて当たり前なんですけど、それにしてもきょうは当たらないですねー。駒組みのあたりはともかく、5筋の歩を交換してから後は予想外の指し手ばかりですねー」とおっしゃっていたように、予想などというものは当たらないほうが普通です。手が当たりだしたら終局近しとまで言われているのだから、予想が外れるのはありふれた光景と言えます。
 しかし、解説者が予想を口にした途端に、そのタイミングを狙ったかのように真逆の手が指され、なおかつそれが繰り返されるというのはもしかすると稀なことなのかもしれません。

 たとえば菅井・谷川戦、65手目▲7七飛に△8七角成。
藤井「ここはちょっと8七角成はさせないですね・・・と、言った矢先に指してますねー(笑)」 
 あるいは菅井・谷川戦、83手目▲5四銀に△同金。

藤井「ここは5四銀は取ってらんないですねーって、あれ? 取ってますね(笑)」

 はたまた渡辺・菅井戦、42手目△7一銀に▲7七桂。
藤井「渡辺竜王は7七桂みたいな手は好きじゃないんですよね。だから7七桂とは跳ねないでしょうね」
谷川「私なら喜んで7七桂と跳ねますけど」
上田「あ、跳ねました!」
藤井「(笑)」

 なんというタイミングの妙! これはもはや神の領域、奇跡の御業としか思えません。
「ああ、この人は神様に祝福されている・・・(笑)の神に・・・」
 そう思って藤井九段の頭上を見上げると、そこには藤井九段を祝福する天使の姿が見えるような気がしました。